安藤写真事務所

地方に暮らす写真好きの日常

工場の見える街

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確かなものはひとつも持ってなくて、生きている意味も見出せなくて。

それでも今、呼吸をしている。生きている。

海の向こうに見えるのは、水平線に連なる工場の風景。灰色とコントラストを分けた青い空。

海は静かに、山は動かず、柔らかな光は街に降る。人は平和に見えるのに、いつも心はざわついていた。

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昨日と変わらない今日。誰かにとっては退屈な日々も、他の誰かにとっては楽しい日々だったり、癒しの時間だったり、刺激的な日々だったのかもしれない。

夜が来る。夜の時間はせつない。街灯の明かりの少ない街を思うと、どこへも行けないような気持ちになって、不自由さに打ちひしがれる。

昼も夜も早朝も自由に外へ出たかったけれど、いつもどこにも行かなかった。

一日の長い時間を部屋の中で過ごした。街の外れの図書館へ行くこともあった。どちらも落ち着く場所だったから。

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記憶の中にある昔の街の風景。今目にする街の風景。どちらも大きく変わらない。

長い年月の間に人は入れ替わるけど、土台はいつまでも変わらない。変わらなくていいシステムとして出来上がっている。そんな街。

落ち着くんですよね。落ち着くのでしょう。その変わらなさに。

朝は霧が立ち込めて、夕方には影を落とす街の風景を眺めている。

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生まれるのも命の消えるのも、ただ時間のすぎていくのも、全てがあるような気がしていた。

本当は空白の街だった。

海の向こうの工場以外に何にもなかったその街では、記憶の中の誰かに出会うしか道は無かった。

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イメージばかり膨らむから、想像する力は日ごとに大きくなって、やがてイメージに現実が追いつかなくなって、手が付けられないほどに育った。

灰色と青の工都。

過ぎた時間に涙する、静かな雨の降る街。

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